妄想 森鴎外 

荒木です。

森鴎外の短編集『山椒大夫・高瀬舟』に掲載されている一編、『妄想(もうぞう)』。

森鴎外の当時の読書の仕方、姿勢に、共感した。

彼の生業である自然科学以外の読書の仕方、姿勢である。

「ただその読み方が、初めハルトマンを読んだ時のように、餓えて食を貪るような読み方ではなくなった。昔世にもてはやされていた人、今世にもてはやされている人は、どんな事を言っているのかと、たとえば道を行く人の顔を辻に立って冷淡に見るように見たのである。

冷淡には見ていたが、自分は辻に立っていて、度々帽を脱いだ。昔の人にも今の人にも敬意を表すべき人が大勢あったのである。

帽は脱いだが、辻を離れてどの人かの跡に附いて行こうとは思わなかった。多くの師には逢ったが、一人の主には逢わなかったのである。」

読書する時は、良い意味での同情や熱意をもたずに、辻に立って、様々な知識人の知恵や感覚に思いをめぐらすこと。

どんどんその知恵や感覚に影響を受けて、脱帽し、今の人も昔の人も関係なく、尊敬の念をいだく。

ただだからと言って、その中の特定の人を真に敬慕し、その後を追いかけ、信仰することはなかった、と。

そうだよな。。

本は、辻に立って冷淡に、読みたい。