人間関係をととのえる

昨年、とある住宅が竣工した。

今時珍しい多世帯住宅。住まうのは親戚A氏、親戚B氏、親戚C氏、親戚D氏、そして町にひらかれたアトリエ。当然のごとく、設計は困難を極めた。血縁関係は難しい。関係が近すぎるがゆえに価値観の共有が難しいのである。要望も様々、関係も様々。でも皆で一つ屋根の下に住もうとする強い意志は揺るがない。

私は一つだけルールを決めた。私が居る場でしか家の話はしない、ということ。しかしそこからが大変だったのはいうまでもない。安心して全てをさらけ出してもらうために、とにかく寄り添う必要があった。私はまず徹底的に話を聞いた。それぞれの世帯から個別に話を聞き、本音を引き出し、別世帯に伝え、また次の世帯と、毎週末打ち合わせを繰り返した。仕切りの位置から鍵の一つまで細かく共有した。無論、皆を喜ばせる建築的な提案を伴って。

いつしか二年が過ぎようとしていた。ようやっと皆が一つにまとまり、着工前に酒を飲みながら施主に言われた言葉がある。「究極的なことを言えば、もし万が一建物が完成しなくてもよいと思っている。もう既に、一番大事な人間関係を作ってもらえたのだから。」

私はこのときほど、建築家として、人間同士を繋ぎ「ととのえる」ことの意味を噛み締めたことはない。それは声高に叫ぶことではないが、じんわりと感情が高ぶる類いの経験であった。